「リンパ浮腫になるのが怖いです」
乳がん術後の方から、そんな言葉を聞くことがあります。
インターネットで調べると、
「腕がむくむ」
「一度なると治らない」
「重症化することもある」
そんな情報が目に入り、不安になってしまうこともありますよね。
でも、私はリンパ浮腫について、
「怖がりすぎる」のでもなく、
「自分には関係ない」と思うのでもなく、
正しく知っておくことが大切
だと考えています。
リンパ浮腫は、乳がんの治療を受けたすべての方に起こるわけではありません。
一方で、治療内容によって、発症する可能性が高くなることも分かっています。
だからこそ、
「私はどのくらい気をつけたらいいの?」
を知っておくことが、安心につながります。
リンパ浮腫って、どうして起こるの?
リンパ液は、身体の中をめぐりながら、余分な水分やたんぱく質などを運ぶ大切な役割をしています。
乳がんの手術では、必要に応じて、わきの下のリンパ節を調べたり、取り除いたりします。
また、放射線治療によって、リンパの流れに影響が出ることもあります。
こうした治療によって、これまでとはリンパ液の流れ方が変わると、腕や手、胸などにリンパ液がたまりやすくなり、むくみが起こることがあります。
これが、乳がん治療後の「リンパ浮腫」です。
そして大切なのは、
手術直後に何もなくても、あとからリンパ浮腫が出てくることがある
ということです。
一方で、今、むくみがないからといって、必要以上に心配することはありません。
リンパ浮腫は、治療後すぐに起こるとは限らず、時間が経ってから現れることもあります。
だからこそ、今むくみがない方も、必要以上に不安になるのではなく、
「もし変化があったら気づけるようにしておこう」
くらいに考えておくとよいでしょう。
リンパ浮腫の初期症状を知りたい方はこちらもご覧ください
▶乳がん手術後に気を付けたい症状とは?
リンパ浮腫のリスクが高くなるのは、どんな場合?
リンパ浮腫のリスクは、手術や治療の内容によって変わります。
特に注意したいのが、次のような要因です。

① 腋窩リンパ節郭清を受けた方
わきの下のリンパ節を広い範囲で取り除く「腋窩リンパ節郭清」は、センチネルリンパ節生検に比べて、リンパ浮腫のリスクが高くなります。
取り除くリンパ節の数や範囲が大きいほど、リンパの流れに影響する可能性も高くなります。
ただし、
「リンパ節郭清をした=必ずリンパ浮腫になる」
ということではありません。
リンパ節郭清を受けても、リンパ浮腫にならない方もたくさんいらっしゃいます。
② 乳房全摘を受けた方
乳房全摘も、乳がん治療後のリンパ浮腫のリスクに関係する要因のひとつとして挙げられています。
ただし、乳房全摘そのものだけでリスクが決まるわけではありません。
リンパ節の手術をどのように受けたのか、放射線治療を行ったのかなど、治療内容全体を合わせて考えることが大切です。
ですから、
「全摘したから、きっとリンパ浮腫になる」
と考える必要はありません。
③ 放射線治療を受けた方
放射線治療も、リンパ浮腫のリスクに関係します。
放射線によって組織に変化が起こり、リンパ液の流れに影響することがあるためです。
特に、リンパ節郭清などの手術と放射線治療が組み合わさる場合には、リンパ浮腫への注意がより大切になります。
とはいえ、
「放射線治療をしたらリンパ浮腫になる」
という意味ではありません。
放射線治療には、乳がんの再発を防ぐために大切な役割があります。
リンパ浮腫が心配だからといって、必要な治療を避けるのではなく、
治療を受けながら、自分の身体の変化にも目を向けていく。
そのくらいの気持ちで大丈夫です。
④ タキサン系抗がん剤を使用した方
乳がんの治療で使われることのある**タキサン系抗がん剤(パクリタキセル、ドセタキセルなど)**も、リンパ浮腫との関連が研究されています。
タキサン系薬剤は、治療中に手足などのむくみ(体液貯留)を起こすことがあります。
また、一部の研究では、タキサン系を含む化学療法とリンパ浮腫との関連が報告されています。
一方で、タキサン系抗がん剤そのものがリンパ浮腫の発症リスクを明確に高めるとは言えない研究もあります。
そのため、
「タキサン系を使ったからリンパ浮腫になりやすい」
と単純に考えるのではなく、リンパ節の手術や放射線治療など、ほかの要因と合わせて考えることが大切です。
「私が使った抗がん剤はタキサン系かな?」と思った方は、治療時の資料やお薬手帳を確認したり、主治医に聞いてみてもよいでしょう。
「私はリスクが高い」と知ったら、怖くなる?
もしかすると、
「全摘もした」
「リンパ節郭清もした」
「放射線治療もした」
「抗がん剤もした」
という方は、
「私、かなり危ないのでは……」
と不安になるかもしれません。
でも、ここでお伝えしたいのは、
リスクが高い=リンパ浮腫になる
ではない、ということです。
いくつかのリスク要因が重なっていても、リンパ浮腫にならない方はいます。
そして、もしむくみが出たとしても、
早い段階で気づいて相談することが大切です。
だからこそ、怖がって何もできなくなるのではなく、
「私は少し注意しておこう」
くらいに考えていただけたらと思います。
「いつもと違う」に気づくことが大切

リンパ浮腫の初期には、
- 腕や手がなんとなく重い
- 指輪や時計がきつく感じる
- 片方の腕だけ張る感じがする
- 手の甲がむくんでいるように感じる
- 服の袖が片方だけきつく感じる
- 皮膚がつっぱるような感じがする
- 今までなかった違和感が続いている
など、「なんとなくいつもと違う」という変化から始まることがあります。
もちろん、これらの症状があったからといって、すべてがリンパ浮腫というわけではありません。
術後の炎症や一時的なむくみ、肩や腕の動かしにくさなど、ほかの原因もあります。
だからこそ、
自己判断で「リンパ浮腫だ」と決めつけないことも大切です。
気になる変化が続くときは、主治医やリンパ浮腫について相談できる医療機関、専門職に相談してみましょう。
リンパ浮腫を「正しく恐れる」
私は、「リンパ浮腫を予防しましょう」という言葉が、ときどき患者さんを苦しくしてしまうことがあると感じています。
「腕を使いすぎたらいけないのかな」
「重いものを持ったらダメなのかな」
「傷をつくったら大変なのかな」
「旅行もできないのかな」
そんなふうに、毎日の生活を制限しすぎてしまうことがあります。
でも、
リンパ浮腫を気にするあまり、生活を小さくしてしまう必要はありません。
乳がん術後のリハビリについての考え方はこちら
▶乳がん術後のリハビリで大切なのは「ゆるめる」こと、そして「うごかす」こと
身体を動かすことも、家事をすることも、仕事をすることも、旅行を楽しむことも。
自分の身体の状態を見ながら、少しずつ生活を取り戻していくことが大切です。
大切なのは、
「何もしてはいけない」ではなく、
「自分の身体の変化に気づけるようにしておく」こと。
それが、私が考える「リンパ浮腫を正しく恐れる」ということです。
リンパ浮腫が心配でも、旅行をあきらめなくていい

「リンパ浮腫のリスクがあるなら、飛行機に乗らないほうがいいですか?」
そんな心配をされる方もいらっしゃいます。
長時間同じ姿勢で過ごす飛行機での移動では、むくみが気になることがあります。
特に、リンパ浮腫がある方や、リンパ浮腫のリスクが高い方は、長時間のフライトでは少し意識して身体を動かすことが大切です。
でも、
「リンパ浮腫のリスクがあるから、飛行機に乗ってはいけない」
ということではありません。
実際に、乳がんの治療を終えたあとに旅行を楽しまれている方はたくさんいらっしゃいます。
はんなりにも、国内旅行だけでなく、海外在住で帰国された際に身体のケアに来てくださる方がいらっしゃいます。
旅行は、身体だけでなく、心にとっても大切な時間になることがあります。
「リンパ浮腫が怖いから、旅行はやめておこう」
と最初からあきらめてしまうのではなく、
自分の身体の状態を知ったうえで、できる範囲の対策をしながら楽しむ。
そんな選択肢もあります。
▶乳がん術後でも温泉旅行を楽しもう|入浴着という選択肢があります
長時間の移動では、身体をこまめに動かす
飛行機などで長時間座っているときは、
- ときどき座席を離れて歩く
- 足首や手をゆっくり動かす
- 同じ姿勢を長時間続けない
- 水分を適度にとる
- 締めつけの強い服装を避ける
など、無理なくできることを取り入れてみましょう。
すでにリンパ浮腫がある方や、弾性着衣を使用している方は、旅行時の装着について主治医やリンパ浮腫の専門家に相談しておくと安心です。
大切なのは、
「何もしないで怖がる」のではなく、知識を持って、自分なりに備えること。
そして、できることをしたうえで、人生の楽しみも大切にすることです。
もしリンパ浮腫になったら、治療する方法があります
「リンパ浮腫になったら、もう元には戻らないのでは……」
そう心配される方もいらっしゃいます。
でも、リンパ浮腫には、状態に応じた治療があります。
代表的な治療のひとつが、複合的理学療法(CDT:Complex Decongestive Therapy)です。
複合的理学療法では、リンパ浮腫の状態を確認しながら、
- スキンケア
- リンパドレナージ
- 弾性包帯や弾性着衣による圧迫療法
- 圧迫した状態での運動
- 日常生活でのセルフケア
などを組み合わせて行います。
リンパ浮腫の予防やセルフケアについては、こちらの記事もご覧ください。
特に、むくみを改善する時期には、圧迫を行いながら運動することも大切です。
状態が落ち着いたあとは、弾性着衣を使ってむくみをコントロールしながら、日常生活や運動を続けていくことがあります。
ただし、弾性着衣の種類や圧迫の強さ、使用時間などは、リンパ浮腫の状態によって異なります。
自己判断で弾性着衣を選ぶのではなく、リンパ浮腫について知識のある医療者に相談することが大切です。
そして、ここでも覚えておいてほしいのは、
リンパ浮腫になったら「腕を使ってはいけない」のではない
ということ。
適切な圧迫を行いながら、身体の状態に合わせて運動や日常生活を続けていくことが、リンパ浮腫のケアでは大切になります。
乳がん術後の運動についてはこちらをご覧ください
▶頑張らなくても続けられる運動習慣|乳がん術後の身体とゆっくり付き合うために
知っているだけで、安心できることがあります
リンパ浮腫は、乳がん治療を受けた方にとって、決して無視していいものではありません。
でも、必要以上に怖がるものでもありません。
自分が受けた治療を知り、
「私は少しリスクが高いかもしれない」
と知っておく。
そして、
「いつもと違うな」
と感じたときに、早めに相談する。
それだけでも、自分の身体と上手につき合っていくための大切な一歩になります。
怖がるために知るのではなく、安心して暮らすために知る。
そんなふうに、リンパ浮腫と向き合ってみませんか。
はんなりでは、身体の小さな変化にも寄り添います

はんなりでは、乳がんの手術後や治療後の身体について、
「腕が重い気がする」
「肩が動かしにくい」
「わきがつっぱる」
「むくみが気になる」
など、病院ではなかなか相談しにくかった身体のお悩みについてもお話を伺っています。
理学療法士として、身体の状態だけでなく、普段の生活やお困りごとも大切にしながら、
「治療が終わったあとも、一人じゃない。」
と思っていただけるような場所でありたいと思っています。
気になることがあれば、一人で抱え込まずにご相談ください。
※この記事は、乳がん治療後のリンパ浮腫について一般的な情報をお伝えするものです。リンパ浮腫の発症リスクや治療、生活上の注意点は、手術や治療の内容、現在の身体の状態によって異なります。気になる症状がある場合は、主治医やリンパ浮腫について相談できる医療機関にご相談ください。

前の記事