病院で見えているのは、その人の人生の一部分
私は理学療法士として、病院で働いていました。
病院では、病気やけがによって身体に不自由が生じた方々と関わってきました。
身体の状態を評価し、リハビリテーションの目標を立て、少しでも元の生活に近づけるように支援する。
それが理学療法士としての仕事でした。
でも、病院で働いていた頃から、ずっと感じていたことがあります。
「病院で見ている患者さんは、仮の姿なのではないか」
病院は、普段の生活の場ではありません。
病衣を着て、決められた時間に食事を取り、検査や治療を受ける。
いつもと違う環境で、いつもと違う生活を送っています。
病院では歩くことに不安がある方も、自宅では慣れた環境の中で上手に動けるかもしれません。
反対に、病院では問題なくできていた動作が、自宅の段差や狭い場所では難しくなることもあります。
病院で見えている姿が、その人のすべてではないのです。
患者さんにも、病院の外に人生がある
病院では、どうしても身体機能や日常生活動作に目が向きます。
どのくらい歩けるか。
腕がどこまで上がるか。
階段を上れるか。
一人で着替えができるか。
どれも、生活を送るうえで大切なことです。
でも、その人の暮らしは、それだけではありません。
仕事があり、家族があり、友人がいる。
趣味や楽しみがあり、長年続けてきた習慣がある。
誰かの世話をすることが生きがいの人もいれば、一人で静かに過ごす時間を大切にしている人もいます。
同じ身体機能でも、何に困るかは人によって違います。
病院で「できること」と、その人が暮らしの中で「したいこと」は、必ずしも一致しません。
だからこそ、リハビリテーションでは、ご本人がどんな生活を望んでいるのかを知ることが大切です。
ただ、入院中の限られた時間で、その人の本当の暮らしをすべて知ることは難しいと感じていました。
「元に戻りたい」という思いと、リハビリの目標

リハビリテーションでは、ご本人の希望も踏まえながら目標を決めていきます。
けれど、ときには目標設定が難しいこともありました。
病気やけがによって障害が残り、以前と同じようには身体を動かせなくなった方。
その現実を、なかなか受け入れられない方もいます。
日常生活での実用性が乏しい動作であっても、「どうしてもできるようになりたい」と希望されることがありました。
理学療法士としては、限られたリハビリの時間を、できるだけ生活に役立つことに使いたい。
別の方法を身につければ、もっと楽に生活できるかもしれない。
そう考えることもあります。
でも、ご本人にとっては、その動作ができるようになること自体に意味があったのかもしれません。
「以前の自分に戻りたい」
「できなくなったことを認めたくない」
そんな気持ちがあっても、不思議ではありません。
頭では理解できても、気持ちが追いつかないことはあります。
障害を受け入れることは、誰かに言われて簡単にできることではありません。
そして、受け入れることは、回復への希望を捨てることでもありません。
その方の希望を大切にしながら、今の身体でできることや、別の方法も一緒に考えていく。
そこに、リハビリテーションの難しさがあると感じていました。
リハビリは導く。サロンでは伴走する
病院を離れ、2016年にリラクゼーションサロンを始めました。
理学療法士としての知識や経験は、今も私の仕事の土台になっています。
でも、お客様との関わり方は少し変わりました。
病院のリハビリテーションでは、評価を行い、目標を設定し、その達成に向けて専門職が方向を示す場面が多くあります。
いわば、導いていくような関わり方です。
もちろん、リハビリも本来は患者さんと一緒に進めるものです。
ただ、治療や退院という期限があり、限られた時間の中で成果を求められることもあります。
一方、サロンでの私の役割は、どちらかといえば「伴走」です。
サロンには、長く通ってくださるお客様がいます。
身体の不調だけでなく、仕事のこと、家族のこと、日々の出来事など、いろいろなお話を伺います。
病院では見えにくかった、その方の普段の暮らしが少しずつ見えてきます。
そして、身体の状態も、生活も、時間とともに変化していきます。
回復を目指すときも、維持を大切にするときも
はんなりには、乳がんの手術を受けて間もない時期から来られる方もいらっしゃいます。
リハビリテーションでは、急性期、回復期、維持期(生活期)という考え方があります。
術後間もない頃は、身体の状態が日々変化することがあります。
昨日できなかったことが、今日できるようになる。
反対に、痛みやつっぱりが強くなったり、疲れやすさを感じたりすることもあります。
その時期には、身体の状態を確認しながら、無理のない動かし方や日常生活での工夫をお伝えすることがあります。
回復が進むにつれて、できることが増え、困りごとも変わっていきます。
そして、治療から何年も経った頃には、後遺症と付き合いながら、今の状態を維持することが大切になる場合もあります。
年齢を重ねることで、新しい不調が出てくることもあります。
はんなりでは、長く通ってくださるお客様も多く、その方の身体や生活の変化を見守りながら、その時々に合わせてケアの内容を変えています。
回復を目指す時期もあれば、維持することを大切にする時期もある。
ときには、ただ身体を休めたい日もあります。
いつも同じ目標を持つ必要はありません。
その方が今、何に困っていて、何を望んでいるのか。
それを大切にしながら関わっています。
サロンで提供しているのは医療としてのリハビリテーションではなく、リラクゼーションを目的としたケアです。
それでも、理学療法士として培ってきた知識や経験は、その時々の身体の状態を理解し、無理のないケアを考える土台になっています。
はんなりで大切にしているケアについては、こちらの記事でも詳しく書いています。
→ AI時代だからこそ、「触れること」を大切にしたい|乳がん術後の身体と向き合うために
伴走するということは、相手のペースに合わせること

術後間もない頃は、身体の変化が大きく、不安や困りごとも次々に変わります。
回復が進むにつれて、生活も少しずつ落ち着いていきます。
そして、長い年月が経てば、今の状態を維持することが大切になる時期もあります。
その間、ずっと同じケアを続けるわけではありません。
変化が大きいときには、その変化に合わせて。
変化が緩やかになれば、ゆっくりと。
立ち止まりたいときには、無理に前へ進めようとしない。
伴走するというのは、相手のペースに合わせて歩くことなのだと思います。
必要なときには、専門職として具体的な助言をする。
ご本人ができることは、その力を尊重する。
そして、ときには見守って待つ。
相手のペースに合わせるというのは、何もしないことではありません。
その方の状態や気持ちを見ながら、自分の関わり方も変えていくことだと思っています。
その人の人生の主役は、その人自身
サロンを始めてから、私が大切にしていることがあります。
それは、施術者が主役にならないことです。
サロンで大切にしている考えは、こちらの記事でも詳しく書いています。
→ はんなりの主役は、あなたです|10年間お客様と過ごしてきて思うこと
身体の専門家として、必要なことをお伝えする。
無理のない方法を一緒に考える。
でも、どう生きるか、何を大切にするかを決めるのは、ご本人です。
専門家が考える「正しい方法」が、必ずしもその方にとって一番心地よい方法とは限りません。
すぐに何かを変えたい方もいれば、今はそっとしておいてほしい方もいます。
何かを始めるには、時間が必要なこともあります。
だから、ときには見守って待つことも大切にしています。
導くことが必要なときもあれば、ただ隣を歩くことが必要なときもある。
どちらが優れているということではなく、その方の状況によって必要な支え方は変わるのだと思います。
治療が終わったあとも、生活は続いていく
病院で働いていた頃、私が見ていたのは、その方の人生のある一時期でした。
でも、退院したあとも、その方の生活は続いていきます。
治療が終わっても、身体の不調が残ることがあります。
年齢を重ねれば、また違う悩みが生まれることもあります。
それでも、日々の暮らしは続いていく。
今、サロンでお客様と長く関わる中で、そのことを以前より身近に感じています。
病院で学んだ、身体を評価し、改善に向けて支援することの大切さ。
そして、サロンで学んだ、変化していく身体と暮らしに寄り添い続けることの大切さ。
どちらも、私にとって欠かせない経験です。
病院では、目標に向かって導くことが多かったように思います。
今は、その方が歩んでいく人生の変化に合わせて、必要なときに手を差し伸べる。
そして、ときには何もせず、見守って待つ。
その方の人生の主役は、その方自身です。
私は、その長い道のりに、そっと寄り添える存在でありたいと思っています。
治療が終わったあとも、一人じゃない。
それが、はんなりを続けている私の思いです。
はんなりについて
リラクゼーションサロンはんなりは、女性専用・完全予約制の個室サロンです。
乳がんの治療中・治療後の方にも、安心して過ごしていただける場所を目指しています。
施術を担当するのは、病院で乳がん術後のリハビリに携わってきた女性理学療法士です。
肩や腕のつっぱり、身体の疲れやむくみなど、その日の状態を伺いながら施術内容を調整します。
「まずは話を聞いてほしい」
「こんな状態でも受けられるのかな」
そんなご相談からでも大丈夫です。
西鉄久留米駅から徒歩約3分。
ご予約は下記の予約ページから承っています。
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