「乳がんの治療を始めてから、手が痛くなった」
「朝、指がこわばって動かしにくい」
「指を曲げるとカクンと引っかかる」
「手首が痛い」
「指の関節が腫れて、コブのようになってきた」
乳がんの治療中や治療後に、このような手や指の症状を感じる方がいます。
そんなとき、
「乳がんと関係があるのかな?」
と心配になることもあるでしょう。
結論からいうと、乳がんそのものが腱鞘炎やばね指、へバーデン結節を直接起こすわけではありません。
ただし、乳がんの治療、とくにアロマターゼ阻害薬によるホルモン療法は、関節の痛みやこわばり、腱や腱鞘の症状と関係することがあります。
乳がん術後の肩こりについてはこちら
▶乳がん手術後に腕が上がらない3つの原因とは?痛み・つっぱり・不安について
そのため、乳がん治療中に手指の症状が出た場合には、
「乳がんとは関係ない」
と決めつける必要もありません。
一方で、
「手が痛い=乳がんが悪くなった」
という意味でもありません。
症状の原因を一つずつ確認していくことが大切です。
まず知っておきたい「腱鞘炎・ばね指・へバーデン結節」の違い

手や指が痛いといっても、原因や症状はさまざまです。
腱鞘炎
腱鞘炎は、筋肉と骨をつなぐ「腱」と、その腱が通る「腱鞘」の間で炎症や摩擦などが起こり、痛みや腫れ、動かしにくさなどが生じる状態です。
手首や指などに起こります。
「物を持つと手首が痛い」
「指を動かすと痛い」
「手を使ったあとに痛みが強くなる」
などの症状があります。
乳がん治療中の方では、アロマターゼ阻害薬による筋骨格系の症状の一つとして、腱や腱鞘に変化がみられることがあります。研究では、アロマターゼ阻害薬を使用している方に腱鞘の炎症や肥厚などが確認された報告もあります。
ばね指
ばね指も、指の腱鞘に関係する症状です。
指を曲げ伸ばしするときに、
- 指が引っかかる
- 「カクン」となる
- 指を伸ばしにくい
- 指の付け根が痛い
- 朝に症状が強い
などがみられます。
つまり、
ばね指は、指の腱鞘に起こる腱鞘炎の一種
と考えると分かりやすいでしょう。
乳がん患者さんを対象とした研究では、アロマターゼ阻害薬を使用している方で、ばね指の発症率が高かったことが報告されています。
へバーデン結節
へバーデン結節は、指先に近い関節に起こる変形性関節症です。
指の第1関節が、
- 腫れる
- 痛む
- 赤くなる
- 徐々に変形する
- 硬いコブのようになる
といった変化がみられます。
これは腱鞘炎とは違い、関節の変化です。
へバーデン結節があるからといって、乳がんが原因とは限りません。
年齢や女性ホルモンの変化など、さまざまな要因が関係すると考えられています。
乳がんそのものが原因なの?
ここは、とても大切なところです。
乳がんになったあとに手指の症状が出ると、
「乳がんが原因なのでは?」
「骨に転移したのでは?」
と不安になる方もいるかもしれません。
しかし、
腱鞘炎・ばね指・へバーデン結節があることだけで、乳がんの再発や転移を意味するわけではありません。
これらは一般の方にも起こる病気です。
ただし、乳がんの治療中には、治療による身体の変化が加わることがあります。
そのため、
乳がんそのものとは別に、治療との関係を考えることが大切
なのです。
ホルモン療法が関係することがあります
乳がんのホルモン療法には、いくつかの種類があります。
乳がんのホルモン療法と副作用についてはこちら
▶「地味に辛い」ホルモン治療の副作用|見えないつらさをひとりで抱えないで
その中の一つがアロマターゼ阻害薬です。
アナストロゾール、レトロゾール、エキセメスタンなどがあり、エストロゲンが作られる量を大きく減らすことで、ホルモン受容体陽性乳がんの治療に使われます。日本乳癌学会の患者さん向けガイドラインでも、アロマターゼ阻害薬の主な副作用として関節痛などが挙げられています。
エストロゲンは、骨や関節など身体のさまざまな組織と関係しています。
そのため、アロマターゼ阻害薬を使用すると、
- 関節痛
- 朝のこわばり
- 手指の痛み
- 手の握りにくさ
- 腱や腱鞘の症状
などが現れることがあります。
上下の矢印キーを使用してメタボックスパネルのサイズを変更します。
実際に、アロマターゼ阻害薬を使用している患者さんでは、腱鞘の変化や握力低下、朝のこわばりなどが確認された研究があります。
上下の矢印キーを使用してメタボックスパネルのサイズを変更します。
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そのため、
「ホルモン療法を始めてから手指の調子が変わった」
という場合には、治療との関係も含めて考える価値があります。
手指だけではありません。膝などの関節にも症状が出ることがあります

ここまで手や指の症状についてお話ししてきましたが、ホルモン療法による関節症状は、手指だけに起こるものではありません。
特にアロマターゼ阻害薬を使用している方では、
- 手指
- 手首
- 肩
- 肘
- 膝
- 股関節
- 足首や足
など、さまざまな場所に痛みやこわばりが出ることがあります。
このような症状は、アロマターゼ阻害薬関連筋骨格症候群(AIMSS)と呼ばれることがあります。
研究では、アロマターゼ阻害薬を使用している乳がん患者さんの関節症状として、膝は比較的よく痛みが出る部位の一つとして報告されています。ある研究では、痛みの部位として膝が最も多く、28%にみられました。
日本人女性を対象とした研究でも、アナストロゾールを開始した後に、新たに出現したり悪化したりする関節症状が多くみられています。
「膝が痛い=変形性膝関節症」ではありません
乳がんのホルモン療法中に膝が痛くなると、
「膝の軟骨がすり減ったのかな?」
「変形性膝関節症になったのかな?」
と思うかもしれません。
でも、ホルモン療法中に膝が痛いからといって、必ずしも変形性膝関節症になったということではありません。
アロマターゼ阻害薬では、関節そのものの変形とは別に、関節痛やこわばりなどの筋骨格系症状が起こることがあります。
一方で、もともと変形性膝関節症がある方の場合は、
もともとの膝の症状 + ホルモン療法による関節症状
が重なって、痛みが強く感じられることも考えられます。
そのため、
「ホルモン療法のせい」
「年齢のせい」
「変形性膝関節症になった」
と自己判断で決めつけず、症状が続く場合には医療機関に相談することが大切です。
こんな膝の症状があったら主治医に伝えてみてください

たとえば、
- 朝起きたときに膝がこわばる
- 椅子から立ち上がるときに膝が痛い
- 階段の上り下りがつらくなった
- 歩き始めに膝が痛む
- 膝だけでなく、手指や手首も痛い
- ホルモン療法を始めてから痛みが出てきた
- ホルモン療法を続けるうちに痛みが強くなってきた
という場合には、乳腺外科の主治医に伝えてみましょう。
特に、ホルモン療法を開始した時期と、関節の症状が出始めた時期を伝えると参考になります。
日本乳癌学会の患者さん向けガイドラインでも、アロマターゼ阻害薬による関節痛について、症状に応じて温めたり、よく動かしたりすることで改善することがあり、鎮痛薬でも改善しない場合にはホルモン療法薬の変更を検討することがあるとされています。
もちろん、薬を自己判断で中止することはせず、必ず主治医に相談してください。
手指から膝まで。「身体全体の変化」として考えてみる
乳がん治療中の身体の変化というと、
「手術した側の腕」
「胸や脇」
「リンパ浮腫」
などに目が向きやすいかもしれません。
でも、ホルモン療法を始めてから、
「手が痛い」
「指がこわばる」
「膝が痛い」
「朝、身体が動かしにくい」
という変化が出ることもあります。
一つひとつの症状を別々に考えるのではなく、
「ホルモン療法を始めてから、身体全体にどんな変化が起きているのかな?」
と振り返ってみることも大切です。
アロマターゼ阻害薬による筋骨格系の症状は、治療を受ける方の生活の質にも影響することがあります。だからこそ、痛みを我慢して治療を続けるのではなく、主治医に症状を伝え、治療を続けながらできる対策を一緒に考えていくことが大切です。
だからといって、薬を自己判断でやめないでください
手指の痛みがつらいと、
「この薬を飲んでいるから痛いのかな」
「薬をやめたら治るのかな」
と思ってしまうかもしれません。
でも、ホルモン療法は乳がんの再発を抑えるために大切な治療です。
自己判断で薬を中止することはせず、まず主治医に相談してください。
症状が強い場合には、治療を続けながら症状を和らげる方法を考えたり、場合によっては薬の変更を検討したりすることもあります。
「痛いけれど、治療だから我慢するしかない」
と思わなくて大丈夫です。
どんなときに整形外科を受診したらいい?
手指の症状が続いている場合は、整形外科に相談してみましょう。
特に、
- 指の痛みが続いている
- 朝のこわばりが強い
- 指が曲げ伸ばししにくい
- 指が「カクン」と引っかかる
- 指が伸びきらない
- 手首や指の付け根が痛い
- 関節が腫れている
- 指の変形が進んできた
- 物を握ることがつらい
- ボタンを留めるなど細かい作業が難しくなった
- 日常生活に支障が出てきた
という場合には、一度診てもらうと安心です。
可能であれば、手外科を専門としている整形外科に相談するのもよいでしょう。
乳腺外科の主治医にも伝えてください
整形外科だけでなく、乳腺外科の主治医にも手指の症状を伝えてみてください。
たとえば、
「ホルモン療法を始めてから、朝に指がこわばります」
「最近、ばね指になりました」
「手首が痛くなりました」
「指の関節が腫れてきました」
というように、具体的に伝えるとよいでしょう。
特に、
いつから始まったのか
は大切な情報です。
ホルモン療法を始めた時期と症状が出始めた時期を一緒に伝えることで、治療との関連を考える材料になります。
「治療のせいだから仕方ない」と我慢しないで
乳がんの治療中は、身体にさまざまな変化が起こります。
そのため、
「これも治療の副作用かな」
「仕方ないよね」
と我慢してしまうことがあります。
でも、痛みやこわばりがあるなら、まずはその症状を知ってもらうことが大切です。
原因がホルモン療法なのか。
手の使いすぎなのか。
腱鞘炎やばね指なのか。
へバーデン結節なのか。
あるいは別の病気なのか。
診察によって分かることがあります。
原因が分かれば、できることも変わってきます。
手を「動かしたほうがいい」と頑張りすぎないで
指がこわばったり動かしにくかったりすると、
「固まらないように、たくさん動かさなきゃ」
と思うこともあるでしょう。
もちろん、身体を適度に動かすことは大切です。
でも、痛みがあるところを無理に動かしたり、強く揉んだりすればよいとは限りません。
乳がん術後の運動は、頑張りすぎないことも大切です。
▶頑張らなくても続けられる運動習慣|乳がん術後の身体とゆっくり付き合うために
特に、ばね指や腱鞘炎など、腱や腱鞘に問題がある場合には、症状に合わせた対応が必要です。
まずは、
「どこが痛いのか」
「どの動作で痛むのか」
「朝と夜で違うのか」
「いつから始まったのか」
を確認してみましょう。
そして必要であれば、医療機関に相談してください。
はんなりで大切にしていること

はんなりでは、乳がん治療後の身体の変化についてお話を伺うことがあります。
手や指の痛みがあると、
「手を使うのが怖い」
「家事がしづらい」
「仕事に影響が出そう」
と、身体の痛みだけではなく、生活そのものが気になってしまうことがあります。
そんなときも、まずは今の身体の状態を知ることから。
無理に頑張るのではなく、
「今の自分にできること」を一緒に考えていく。
それが大切だと思っています。
なお、はんなりはリラクゼーションを行うサロンであり治療は行っておりません。
強い痛みや腫れ、急な症状、症状の悪化がある場合には、まず医療機関へご相談ください。
まとめ|手指の痛みも、身体からの大切なサイン
乳がんそのものが、腱鞘炎やばね指、へバーデン結節を直接起こすわけではありません。
一方で、乳がんのホルモン療法、とくにアロマターゼ阻害薬では、関節痛やこわばりだけでなく、腱や腱鞘に関連する症状がみられることがあります。
だから、
「乳がんとは関係ない」
と決めつける必要もありません。
そして、
「手が痛い=乳がんが悪くなった」
ということでもありません。
手指の腱鞘炎やばね指だけでなく、膝や股関節などの大きな関節にも痛みやこわばりが出ることがあります。
「膝が痛いから変形性膝関節症になった」とは限りません。
ホルモン療法、とくにアロマターゼ阻害薬を使用している場合には、治療との関連も含めて主治医に相談してみましょう。
身体の変化に気づくことは、治療をあきらめることではありません。
治療を続けながら、できるだけ自分らしく毎日を過ごすために、痛みやこわばりも大切な身体からのサインとして受け止めていきましょう。
大切なのは、症状を一人で抱え込まず、
乳腺外科の主治医に伝えること。
必要であれば、
整形外科で診てもらうこと。
そして、痛みがあるときには、無理をして頑張りすぎないことです。
手は、毎日の生活に欠かせない大切な場所。
ペットボトルのふたを開ける。
スマートフォンを持つ。
服のボタンを留める。
料理をする。
誰かの手を握る。
そんな何気ないことが、痛みのために少しずつつらくなることがあります。
だからこそ、小さな痛みも「我慢しなければいけないもの」と思わなくて大丈夫です。
身体の変化に気づいたら、どうぞその声を聞いてあげてください。
治療を続けながら、自分の身体とも上手につき合っていく。
はんなりでも、そのためのお手伝いができたらと思っています。
治療が終わったあとも、一人じゃない。
どうぞお気軽にご相談ください。


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