「リンパ浮腫が怖くて、腕を使わないようにしています」
乳がん術後の方から、そんなお話を聞くことがあります。
「重いものを持ったら、リンパ浮腫になるのでは?」
「家事をしすぎないほうがいい?」
「運動をしたら、むくみが悪化するのでは?」
リンパ浮腫を心配するあまり、腕をできるだけ使わないようにしている方もいらっしゃいます。
でも、
リンパ浮腫が心配だからといって、腕を使わないことが予防になるわけではありません。
むしろ、乳がん術後の身体を回復させ、これまでの生活を少しずつ取り戻していくためには、無理のない範囲で身体を動かしていくことが大切です。
「動かしてはいけない」のではなく、
「身体の状態を見ながら、少しずつ動かしていく」
そんなふうに考えてみませんか。
「腕を使う=リンパ浮腫になる」ではありません

まず、一番お伝えしたいことです。
腕を使ったからといって、それだけでリンパ浮腫になるわけではありません。
乳がん術後には、手術や放射線治療などによってリンパの流れに変化が生じることがあります。
そのため、リンパ浮腫のリスクがある方は、身体の変化に気をつけることは大切です。
でも、
「腕を使わない」
「重いものを一切持たない」
「家事をしない」
という生活を続ける必要はありません。
むしろ、腕を動かさない状態が続くと、肩が動かしにくくなったり、筋力が低下したりして、日常生活に支障が出ることがあります。
大切なのは、
「使わない」ではなく「無理なく使う」こと。
です。
乳がん術後は「少しずつ」が大切
乳がんの手術を受けた直後は、傷の状態や痛み、つっぱり感などを考慮する必要があります。
いきなり以前と同じように動こうとする必要はありません。
まずは、できる範囲から。
そして、身体の状態を見ながら少しずつ活動量を戻していきます。
たとえば、
- 着替える
- 髪をとかす
- 洗顔をする
- 食事の準備をする
- 洗濯物を干す
- 散歩をする
など、日常生活の中にも身体を動かす機会はたくさんあります。
「運動をしなくては」と頑張るよりも、
毎日の生活の中で、少しずつ身体を使っていく。
それも大切なリハビリテーションです。
「休む」と「動かさない」は違います
術後は、身体を休めることも大切です。
疲れたら休む。
痛みがあるときは無理をしない。
治療中は、その日の体調に合わせる。
これはとても大切です。
でも、
「休むこと」と「動かさないこと」は同じではありません。
体調が落ち着いているときには、できる範囲で身体を動かす。
そして疲れたら休む。
その繰り返しで、少しずつ身体を取り戻していきましょう。
重いものは持ってもいい?
「何kgまでなら大丈夫ですか?」
これは、よく聞かれる質問です。
でも、乳がん術後の方すべてに、
「○kgまでなら安全」
と一律に決められるわけではありません。
手術の内容やリンパ浮腫の有無、身体の状態、これまでの運動習慣などによっても違います。
大切なのは、いきなり大きな負荷をかけるのではなく、
軽いものから始めて、少しずつ負荷を増やしていくこと。
たとえば、久しぶりに庭仕事をする、重い荷物を持つ、大掃除をするなど、普段より負担の大きいことをするときは、一度に頑張りすぎないようにしましょう。
「今日はここまで」
と区切りながら行うことも大切です。
運動はしてもいい?

「リンパ浮腫が心配だから、運動をしないほうがいい」
と思っている方もいらっしゃるかもしれません。
現在では、リンパ浮腫のリスクがあるからといって、運動を一律に避ける必要はないと考えられています。
無理のない範囲で身体を動かすことは、体力や筋力の維持、肩や腕の動きの改善などにもつながります。
たとえば、
- ウォーキング
- ストレッチ
- 肩や腕を動かす運動
- 軽い筋力トレーニング
などがあります。
ただし、手術直後や治療中などは、身体の状態によって注意が必要です。
「何を、どのくらい行っていいのか分からない」
という場合は、主治医や理学療法士などの専門職に相談してみましょう。
「腕を使ったら、むくんだ気がする」ときは?
腕を使ったあと、
「なんとなく重い」
「張る感じがする」
「少しむくんだ気がする」
と感じることがあるかもしれません。
そんなとき、
「腕を使ったからリンパ浮腫になった」
とすぐに決めつける必要はありません。
一時的なむくみや疲労など、ほかの原因も考えられます。
ただし、
- むくみが繰り返す
- 片方の腕だけが腫れている
- 腕や手が重く感じる状態が続く
- 指輪や時計がきつくなった
- 皮膚が張るように感じる
など、いつもと違う変化が続く場合は、一度相談してみましょう。
早めに気づいて、必要なときに相談する。
それが大切です。
リンパ浮腫のリスクが高い方も、身体を動かしていい
リンパ節郭清を受けた方や、放射線治療を受けた方など、リンパ浮腫のリスクが高い方もいらっしゃいます。
「私はリスクが高いから、腕を使わないほうがいいのでは?」
と思うかもしれません。
でも、リスクが高いことと、
「腕を動かしてはいけない」
ことは同じではありません。
むしろ、身体の状態を見ながら、適切に身体を動かしていくことが大切です。
必要に応じて、専門職と一緒に運動量や方法を考えていきましょう。
リンパ浮腫になった場合も、「動かしてはいけない」わけではありません
もしリンパ浮腫がある場合も、
「むくんでいるから、腕を動かさない」
と考える必要はありません。
リンパ浮腫の治療では、状態に応じて圧迫療法や運動などを組み合わせることがあります。
複合的理学療法(CDT)では、スキンケア、リンパドレナージ、弾性包帯や弾性着衣による圧迫療法、圧迫下での運動などを組み合わせて行います。
つまり、
「圧迫しながら、適切に動く」
という考え方もあるのです。
ただし、どのような圧迫が必要なのか、どの程度運動してよいのかは、リンパ浮腫の状態によって異なります。
自己判断で無理をせず、リンパ浮腫について相談できる医療者に確認しましょう。
弾性着衣を使っている方も、生活を楽しんでいい
リンパ浮腫のケアで弾性着衣を使用している方もいらっしゃいます。
弾性着衣は、むくみをコントロールしながら日常生活を送るための大切なサポートのひとつです。
でも、
「弾性着衣を着けているから、何もしてはいけない」
ということではありません。
家事をしたり、仕事をしたり、散歩をしたり。
状態に合わせて、できることを続けていきましょう。
弾性着衣について詳しく知りたい方は、こちらの記事も参考にしてください。
▶「乳がん術後の弾性着衣(アームスリーブ)について|選び方・使い方・旅行時のポイント」
旅行や仕事も、あきらめなくていい

リンパ浮腫が心配になると、
「旅行はやめておこう」
「仕事で腕を使うから心配」
「家族との外出も控えよう」
と、生活そのものを小さくしてしまうことがあります。
でも、
リンパ浮腫を心配するあまり、自分らしい生活まであきらめる必要はありません。
旅行に行く。
仕事をする。
家事をする。
好きなことを楽しむ。
そのために、自分の身体の状態を知り、無理をしすぎない方法を探していけばいいのです。
長時間の飛行機などでは、同じ姿勢を長く続けないようにしたり、こまめに身体を動かしたりするなど、できる範囲で対策をしておくと安心です。
旅行については、こちらの記事でも詳しくお話ししています。
▶「リンパ浮腫を正しく恐れるということ|乳がん術後に知っておきたいリスクと向き合い方」
「動かさない」より、「身体の声を聞く」
乳がん術後の身体は、手術前とは少し違うかもしれません。
疲れやすかったり、
肩が動かしにくかったり、
わきがつっぱったり、
腕に違和感があったり。
だからこそ、
「以前と同じように頑張る」必要はありません。
今日できることを、今日の身体に合わせて。
少し動いてみる。
疲れたら休む。
また元気になったら動く。
そんな繰り返しでいいのです。
合わせて読みたい
はんなりが大切にしている「ゆるめる、うごかす」
私は理学療法士として、乳がん治療後の身体を見てきました。
同じ乳がんの手術を受けても、身体の状態や生活の困りごとは一人ひとり違います。
「腕が上がらない」
「肩が痛い」
「わきがつっぱる」
「運動したいけれど、どこまでしていいか分からない」
そんなお悩みもあります。
だから、数字や一般的な基準だけで、その方の生活を決めつけることはしたくありません。
どんな生活をしているのか。
何に困っているのか。
これから何をしたいのか。
そこまで含めて、一緒に考えていきたいと思っています。
はんなりが大切にしているのは、
ゆるめる、うごかす。
身体を無理に変えるのではなく、今の身体に合わせて、少しずつ動きやすさを取り戻していくことです。
乳がん術後のリハビリについての考え方は、こちらの記事に詳しく載せています。
▶乳がん術後のリハビリで大切なのは「ゆるめる」こと、そして「うごかす」こと
リンパ浮腫が心配だからこそ、身体を大切に動かそう
リンパ浮腫が心配だからといって、腕を使わないようにする必要はありません。
大切なのは、
- 無理をしない
- 少しずつ負荷を増やす
- 身体の変化に気づく
- 気になる症状が続けば相談する
こと。
そして、
「リンパ浮腫にならないように生きる」のではなく、
「身体を大切にしながら、自分らしく暮らす」。
私は、それが乳がん治療後の生活にとって大切なことだと思っています。
怖いから動かさない。
ではなく、
知って、感じて、少しずつ動かす。
あなたの身体と相談しながら、あなたらしい毎日を取り戻していきましょう。
※この記事は、乳がん術後の運動やリンパ浮腫について一般的な情報をお伝えするものです。運動を開始する時期や内容、負荷については、手術や治療の内容、現在の身体の状態によって異なります。痛みや腫れ、その他の気になる症状がある場合は、主治医や医療専門職にご相談ください。

前の記事

