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乳房再建のエキスパンダー|なぜ時間をかけるの?生活への負担と10年後の左右差まで

乳房再建のエキスパンダー|なぜ時間をかけるの?生活への負担と10年後の左右差まで

乳がんの手術を受けたあと、

「乳房再建をしたい」

と思ったとき、初めて聞く言葉の一つが**ティッシュ・エキスパンダー(組織拡張器)**です。

「風船のようなものを胸に入れて、少しずつ膨らませる」

と聞くと、

「どうして最初からインプラントを入れないの?」

「何か月も入れておく必要があるの?」

「その間、普通に生活できるの?」

と疑問に思う方もいるでしょう。

実は、エキスパンダーを入れている期間は、乳房再建の「途中」であると同時に、患者さんにとっては何か月も続く日常生活そのものです。

今回は、エキスパンダーの役割から、生理食塩水を入れる通院、生活への影響、そして将来的な左右差やインプラントの入れ替えまで、できるだけわかりやすくお話しします。

なぜ、いきなりインプラントを入れないの?

ここは、乳房再建を理解するうえで大切なところです。

美容目的の豊胸では、もともとの乳房の皮膚や皮下組織などが残っています。

そのため、条件が合えば、最初からインプラントを入れることができます。

一方、乳がんで乳房全切除をすると、乳腺などの乳房組織が取り除かれます。

その結果、インプラントを覆う皮膚や軟部組織に十分な余裕がないことがあります。

そこで、まずエキスパンダーを入れます。

イメージすると……

乳房全切除

↓

残った皮膚・組織だけでは、十分なスペースがないことがある

↓

エキスパンダーを入れる

↓

生理食塩水を少しずつ注入

↓

皮膚や周囲の組織を時間をかけて広げる

↓

十分に拡張したところでインプラントへ交換

という流れです。

乳房再建でエキスパンダーからインプラントへ交換する流れ

日本乳癌学会の患者向けガイドラインでも、インプラントによる再建では、エキスパンダーを入れて生理食塩水を徐々に注入し、その後インプラントに入れ替える方法が一般的とされています。

ただし、乳がん術後なら必ずエキスパンダーが必要というわけではありません。

乳房の大きさや残っている皮膚の状態などによっては、乳房全切除と同時にインプラントを入れる「一段階再建」が可能な場合もあります。

エキスパンダーは「皮膚を準備する時間」

エキスパンダーの役割は、単純に胸を膨らませることではありません。

将来インプラントを入れられるように、皮膚や周囲の組織を少しずつ準備していくこと。

これが大きな役割です。

身体の組織を一度に無理に広げるのではなく、時間をかけて少しずつ拡張していきます。

だからこそ、エキスパンダーの期間には「待つ時間」があります。

そして、その「待つ時間」も、患者さんにとっては治療の一部です。

生理食塩水はどうやって入れるの?

エキスパンダーには、生理食塩水を注入するためのポートがあります。

外来の診察室でポートの位置を確認し、皮膚を消毒して、専用の針をポートに刺します。

そして、シリンジを使って生理食塩水を注入します。

毎回手術をするわけではありません。

外来で少しずつ注入しながら、乳房の皮膚や周囲の組織を段階的に広げていきます。

ただし、ポートの位置を確認する方法や注入量、注入間隔などは、使用するエキスパンダーや医療機関によって異なります。

そのため、

「毎回○mL」

「必ず○週間ごと」

と一律に考えることはできません。

日本乳癌学会では、数週に1度程度の注入が説明されています。

生理食塩水を入れると、どんな感じ?

ここは、実際にエキスパンダーを入れた方にとって気になるところだと思います。

注入すると、

  • 胸が張る
  • パンパンする
  • 重く感じる
  • つっぱる
  • 違和感が強くなる

などの感覚が出ることがあります。

注入量によっては、張りや痛みが強くなることもあります。

「少しずつ」とはいっても、身体にとっては毎回変化が起こるわけです。

痛みや張りが強い場合、いつもと違う症状がある場合には、我慢せず担当の医師に伝えることが大切です。

通院も、患者さんにとっては負担です

乳房再建でエキスパンダーの注入について医師から説明を受ける女性

エキスパンダーを入れたら、次の手術まで何もせず過ごすわけではありません。

診察を受ける。

↓

生理食塩水を注入する。

↓

皮膚や胸の状態を確認する。

↓

また次の通院へ。

これを何度か繰り返します。

仕事をしている方なら、勤務の調整が必要になることがあります。

子育て中の方なら、

「その間、子どもをどうする?」

ということまで考えなければならないこともあります。

乳がん治療そのものの通院に加えて、再建のための通院も続く。

これは、決して小さな負担ではありません。

子育て中の方には「動けないこと」がつらい場合も

乳房再建後に子どもと穏やかに過ごす女性

エキスパンダーが入っている期間には、身体の動かし方にも気をつかうことがあります。

もちろん、どこまで動いてよいかは手術の時期や傷の状態などによって違います。

でも、小さなお子さんがいる方なら、

「子どもと一緒に走りたい」

「急に走っていった子どもを追いかけたい」

「思い切り遊びたい」

と思うこともあるでしょう。

治療前には当たり前だったことが、一時的に難しくなる。

それが、身体的な負担だけではなく、生活の負担になることがあります。

「治療中だから仕方がない」

だけでは片づけられない部分です。

感染にも注意が必要です

エキスパンダーやインプラントは、身体の中に入っている人工物です。

そのため、感染には注意が必要です。

感染が起こった場合には、人工物をいったん取り除いて感染の治療を行い、感染が治まってから再建を再開することがあります。

だからこそ、手術後は傷の状態や身体の変化にも気を配ります。

日常生活の中で、

「これはしてもいい?」

「運動はいつから?」

「お風呂やプールは?」

など、疑問があれば自己判断せず、担当医に確認することが大切です。

エキスパンダーが入っている方の身体をケアするとき

はんなりにも、エキスパンダーが入った状態で来られる方がいらっしゃいます。

そのときに大切にしているのは、

「いつも通りの姿勢で施術を受けてもらう」ことを前提にしないこと。

エキスパンダーが入っていると、胸の張りや違和感から、仰向けがつらい方もいます。

その日の状態を確認しながら、必要に応じて横向き(側臥位)など、身体に負担の少ない姿勢を選びます。

もちろん、手術後の時期や傷の状態、主治医からの指示が最優先です。

「施術を受けるために身体を我慢させる」のではなく、

今の身体に合わせて、できる方法を探す。

それも術後の身体に寄り添うケアだと思っています。

エキスパンダーの次はインプラント

十分に組織が拡張されたら、次の段階としてエキスパンダーをインプラントに入れ替えることがあります。

ただし、

「目標の大きさになったら、すぐ交換」

とは限りません。

組織の状態や治療計画を見ながら、次の手術のタイミングを決めます。

乳房再建では、エキスパンダーを約3~6か月程度使用する方法が一般的に説明されていますが、実際の期間は患者さんによって異なります。

ここで知っておきたい「健側」のこと

乳房再建後の左右のバランスについて、鏡を見ながら自分の身体を確認する女性

乳房再建では、がんになった側だけを見ていればいいわけではありません。

大切なのが、反対側の乳房(健側)とのバランスです。

もともと左右の乳房は完全に同じではありません。

さらに、再建した乳房と健側の乳房では、時間とともに変化する仕方が違うことがあります。

日本乳癌学会の患者向けガイドラインでも、再建していない側の乳房は加齢とともに下垂していくため、左右のバランスが悪くなることがあり、その場合には健側の豊胸や挙上などでバランスを調整することがあると説明されています。

「10年後、20年後」はどうなる?

ここは、乳房再建を考えるときにぜひ知っておいてほしいことです。

たとえば片側をインプラントで再建したとします。

手術直後は、できるだけ左右の大きさや高さを合わせます。

ところが年月が経つと、健側の乳房には、

  • 加齢
  • 皮膚や組織の弾力性の変化
  • 体重の増減
  • ホルモン環境の変化

などによって、少しずつ変化が起こります。

健側は自然の乳房なので、年齢とともに下垂していくことがあります。

一方、インプラントで再建した乳房は、健側とまったく同じようには変化しません。

そのため、

最初はきれいに揃っていたのに、何年か経ってから左右差が目立ってくる

ことがあります。

「片方は少しずつ下がってきたのに、再建した側は丸みのある形が残っている」

と感じることもあります。

これは「再建が失敗した」ということではありません。

自分の乳房と人工物では、年齢とともに変化する仕方が違う

ということです。

健側を調整する方法もあります

左右差が気になる場合には、健側を調整する方法があります。

たとえば、

健側が大きい場合

乳房縮小術

健側が下がっている場合

乳房固定術(つり上げ)

健側を大きくしたい場合

インプラントによる増大

少しだけボリュームを調整したい場合

脂肪注入

などです。

どの方法が適しているかは、もともとの乳房の大きさや形、再建方法、年齢、体型、本人の希望などによって異なります。

また、健側への美容的な処置は、患側の乳がん再建とは診療上の扱いが異なるため、保険適用や費用については医療機関に確認することが必要です。

「左右を完全に同じ」にする必要はありません

ここも大切です。

左右差があるからといって、必ず健側の手術をしなければならないわけではありません。

「少しくらい左右差があっても気にならない」

という方もいます。

反対に、

「洋服を着たときの左右差が気になる」

「温泉などで気になる」

「できるだけ左右を近づけたい」

という方もいます。

どちらが正解ということではありません。

乳房再建の目的は、

左右を完全に同じにすることではなく、その人が納得できる身体に近づけていくこと。

そう考えてよいのだと思います。

では、インプラントは10年で交換するの?

ここも、よく聞かれる質問です。

結論からいうと、

「10年たったら必ず交換」という決まりはありません。

インプラントは一生使い続けることを前提とした医療機器ではありません。

一方で、

「10年で必ず交換するもの」でもありません。

日本乳癌学会も、インプラントは半永久的なものではなく、破損や被膜拘縮、痛み、左右差などによって入れ替えが必要になることがあると説明しています。また、10年を超える長期の安全性データは限られているとしています。

FDAも、乳房インプラントは「生涯使えるものではない」とし、留置期間が長くなるほど合併症や追加手術の可能性が高くなると説明しています。ただし、個人ごとのインプラントの寿命を一律に予測することはできません。

どんなときに入れ替えが必要になるの?

インプラントそのものに問題がなくても、再手術が必要になることがあります。

たとえば、

  • インプラントの破損
  • 被膜拘縮(周囲の組織が硬く縮む)
  • 痛み
  • インプラントの位置の変化
  • 左右差
  • 乳房の形の変化
  • サイズや形を変えたい

などです。

2026年8月に更新されたFDAの長期追跡データでも、乳房再建患者では10年間で追加手術を受けた人が一定数おり、主な理由として左右差、被膜拘縮、破損、位置異常、サイズ変更、下垂などが挙げられています。

つまり、

「インプラントが壊れたから交換」だけではありません。

「インプラントに問題がなくても」再手術を考えることがある

ここは、先ほどの「健側とのバランス」とつながります。

たとえば40代で乳房再建をしたとします。

そのときは左右がきれいに揃っていた。

↓

10年、20年と経つ。

↓

健側は加齢によって少しずつ下垂していく。

↓

再建側との高さや形の違いが目立ってくる。

↓

「もう少し左右を合わせたい」

と思う。

この場合、インプラント自体が壊れていなくても、左右のバランスを整えるための修正手術を検討することがあります。

だから乳房再建は、

「手術を受けた日に完成するもの」

ではなく、

「時間とともに変化していく身体と付き合っていくもの」

と考えておくとよいと思います。

乳房再建を考えるときは「10年後の自分」も

乳房再建の相談では、

「どんな乳房になりますか?」

と聞くことが多いと思います。

もちろん、それは大切な質問です。

でも、もう一つ、

「10年後、20年後はどうなりますか?」

と聞いてみてもいいと思います。

  • 健側はどう変化する?
  • 再建した側はどう変化する?
  • インプラントは将来どうなる?
  • 入れ替えが必要になる可能性は?
  • 左右差が出たらどうする?
  • 修正手術にはどんな方法がある?

こうしたことも、再建を選ぶ前に知っておきたい情報です。

乳房再建は「胸をつくる手術」だけではありません

乳房再建というと、

「なくなった乳房を取り戻す」

というイメージがあるかもしれません。

でも実際には、

手術を受けること。

エキスパンダーと数か月過ごすこと。

生理食塩水を入れるために通院すること。

身体を動かすことに気をつかうこと。

子育てや仕事との両立を考えること。

インプラントに入れ替えること。

そしてその先に、

年齢とともに変化していく身体と付き合っていくこと。

そこまで含めて、乳房再建なのだと思います。

再建した乳房も、健側の乳房も、自分の身体です。

「左右を完全に同じにしたい」という気持ちも、

「手術はできるだけ増やしたくない」という気持ちも、

どちらも大切な希望です。

だからこそ、

「どの方法が一番いいですか?」だけではなく、
「この方法を選んだら、私はどんな生活をしていくことになるのですか?」

と考えてみてください。

乳房再建には、いくつもの選択肢があります。

正解は一つではありません。

医学的に可能な方法を知り、その中から自分の生活や希望に合う方法を、医療者と一緒に考えていく。

それも、乳房再建の大切な一歩なのだと思います。

この記事のまとめ

エキスパンダーは、インプラントを入れるために皮膚や周囲の組織を少しずつ準備するためのもの。

生理食塩水の注入には何度かの通院が必要で、張りや痛みを感じることもあります。

エキスパンダーの期間も、仕事・子育て・運動などを含めた「生活」です。

インプラントは10年で必ず交換するものではありませんが、一生涯交換不要というものでもありません。

また、インプラントに問題がなくても、加齢による健側の変化などによって左右差が生じ、将来的に修正を考えることがあります。

だからこそ、乳房再建を考えるときには、

「今どうなるか」だけではなく、「10年後、20年後にどうなっていたいか」まで考えてみること。

それも大切なのだと思います。

※この記事は乳房再建についての一般的な情報です。再建方法、エキスパンダーの注入量・間隔、運動や生活上の注意、インプラントの交換・修正時期は、手術方法、使用する医療機器、皮膚や組織の状態、放射線治療の有無などによって異なります。具体的な治療については、乳腺外科・形成外科の担当医にご相談ください。

はんなりについて

リラクゼーションサロンはんなりは、女性専用・完全予約制の個室サロンです。

乳がんの治療中・治療後の方にも、安心して過ごしていただける場所を目指しています。

施術を担当するのは、病院で乳がん術後のリハビリに携わってきた女性理学療法士です。

肩や腕のつっぱり、身体の疲れやむくみなど、その日の状態を伺いながら施術内容を調整します。

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中野 郁子

この記事を書いた人中野 郁子(なかの いくこ)

乳がん女性の駆け込み寺 はんなりを運営しています。
母をがんで亡くした後、がん患者さんとその家族を支える仕事がしたいと転職。
久留米市の病院に勤務後、2016年に開業しました。
理学療法士、アロマセラピスト、ピンクリボンアドバイザー、乳がん啓発運動指導士の資格があります。

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