乳がんの治療で化学療法を受けることになったとき、
「髪の毛は全部抜けるのかな」
「いつから抜け始めるんだろう」
「ウィッグを準備したほうがいいのかな」
そんなふうに、髪の毛のことを心配される方は少なくありません。
病院でウィッグのパンフレットをもらったり、アピアランスケアについて説明を受けたりすることもあります。
でも、乳がんの治療が一人ひとり違うように、脱毛の程度や始まる時期も人によって違います。
薬物療法でも、使う薬によって脱毛の程度は異なります。脱毛が起こる治療では、治療開始後しばらくしてから抜け始めることがありますが、時期や程度には個人差があります。
今回は、これまでお客様から伺ったお話も交えながら、脱毛を迎える前に知っておきたいこと、そして髪が生えてきた後に困りやすいことについてお話しします。
「髪が抜ける」ことへの不安
乳がん治療の中でも、脱毛は外見の変化が大きいため、不安を感じやすい副作用のひとつです。
髪が抜けることそのものだけでなく、
「人に見られるのが嫌」
「仕事にはどうやって行こう」
「家族にどう思われるかな」
「今までの自分と違ってしまう気がする」
と、さまざまな気持ちが出てくることがあります。
脱毛は単なる「髪の問題」ではなく、生活や気持ちにも影響することがあります。
だからこそ、がん治療による外見の変化を支える**「アピアランスケア」**という考え方があります。
アピアランスケアは、外見が変化しても安心して自分らしく生活できるように支えるケアです。気になることや不安があれば、治療前から医師や看護師などの医療者に相談することができます。
脱毛が始まる前に、準備しておきたいこと

髪を短くするのもひとつの方法
髪が長いと、抜けたときに髪の量が多く感じたり、絡まったりすることがあります。
そのため、脱毛が始まる前に髪を短くしておく方もいます。
ただし、必ず短くしなければいけないわけではありません。
「髪が長いほうが落ち着く」という方もいらっしゃいます。
大切なのは、自分が少しでも過ごしやすい方法を選ぶこと。
美容師さんに「これから化学療法を受ける予定です」と伝えて、相談しながら髪型を決めるのもよいでしょう。
ウィッグは、慌てて買わなくても大丈夫

「脱毛するなら、すぐにウィッグを買わなければ」
そう思う方もいらっしゃいます。
でも、治療前には「絶対にウィッグが必要」と思っていたけれど、実際には帽子やスカーフで過ごしたという方もいます。
反対に、最初はウィッグを使うつもりがなかったけれど、脱毛が始まってから必要になったという方もいます。
ウィッグを準備していても実際には使わない場合があります。
そのため、「今すぐ買わなければ」と焦るより、まずは種類や価格、使う場面などの情報を集めておくのもひとつの方法です。
ウィッグだけでなく、
- 帽子
- バンダナ
- スカーフ
- 医療用帽子
など、選択肢はいろいろあります。

「買っておかなければ」ではなく、
「必要になったら選べるように、情報だけ集めておく」
くらいでも十分です。
髪が抜け始めたら、無理をしない
髪が抜け始めると、頭皮が敏感になったり、かゆみや違和感が気になったりすることがあります。
気になる症状があるときは、我慢せずに主治医や看護師、薬剤師などに相談しましょう。
抜け毛が気になっても、「抜ける前にブラッシングして、あらかじめ抜いてしまう」必要はありません。
頭皮に刺激を与えすぎないよう、やさしく扱うことを基本にしましょう。
髪の毛が落ちるのが気になる場合は、柔らかな帽子やバンダナなどを利用するのもひとつの方法です。
治療中は、髪だけでなく頭皮もいつもより敏感になっていることがあります。
「きれいにしなければ」と頑張りすぎず、できるだけ負担をかけないことを大切にしてください。
意外と多い「髪が生えてきた後」の悩み
脱毛中は、
「早く髪が生えてきてほしい」
と思いますよね。
ところが、髪が生えてきたら生えてきたで、別の悩みが出てくることがあります。
実際にお客様から伺ったのは、こんなお話です。
「前と髪質が違う」

生えてきた髪が、
- くるくるしている
- 柔らかい
- 以前より硬い
- 白髪が増えたように感じる
など、以前とは違う髪質になることがあります。
がん治療後に生えてくる髪には、くせ毛や軟毛、剛毛、白髪などの変化がみられることがあります。髪質の変化は一時的なこともありますが、戻り方には個人差があります。
「こんな髪になるなんて……」
と驚くかもしれません。
でも、髪が生えてきたこと自体は、うれしい変化でもあります。
焦らず、その時期の髪と付き合っていきましょう。
「髪は生えてきたのに、ウィッグが合わない」
髪が少しずつ生えてくると、
「今まで使っていたウィッグがずれる」
ということもあります。
髪がない時期と、少し生えてきた時期では、ウィッグのフィット感が変わることがあります。
そんなときは、
「もうウィッグを卒業しなければ」
と考えなくても大丈夫。
帽子に変えてみたり、部分ウィッグを検討したり、その時期の髪の長さに合わせて方法を変えていけばいいのです。
「前髪がなかなか伸びない」
髪全体は生えてきたけれど、
「前髪が薄い」
「生え際が気になる」
「トップのボリュームが出ない」
という悩みを聞くこともあります。
髪の生え方には個人差があります。
気になる場合は、自己判断で治療を中断したり、発毛を目的としたケアを始めたりする前に、まず主治医に相談しましょう。
美容面については、がん治療後の髪を扱った経験のある美容師さんに相談するのもおすすめです。
髪の長さや状態に合わせて、カットや部分ウィッグなど、今の自分に合った方法を一緒に考えてもらえるかもしれません。
「髪が洗えないこと」がつらかったという方も
これは少し番外編ですが、以前お客様から、
「入院中、思うように髪を洗えないことが意外とストレスだった」
というお話を伺ったことがあります。
その方は、病院内の美容室で洗髪してもらうことで、気分転換になったそうです。
治療中は、病気そのものだけでなく、
「髪を洗う」
「身だしなみを整える」
「美容室に行く」
といった、普段なら当たり前にしていたことが、心のリフレッシュになることがあります。
治療中だからこそ、自分が気持ちよく過ごせる小さな工夫を大切にしてほしいと思います。
頭皮ケアは、まず「やさしくいたわる」ことから
「脱毛した後の頭皮に何かしてあげたい」
そう思う方もいるかもしれません。
美容室などでさまざまな頭皮ケアを提案されることもありますが、がん治療による脱毛に対して、特定の美容施術が発毛を促すとは限りません。
特に、頭皮に赤みや傷、湿疹などがある場合は、刺激のある施術を自己判断で行わず、医療者に相談してください。
まずは、頭皮を強くこすったり刺激したりせず、やさしくいたわること。
それを大切にしていきましょう。
「隠す」だけじゃない。自分らしいスタイルを楽しむ

以前、病院でとても素敵な女性を見かけたことがあります。
髪が抜けた頭に、素敵な柄の大判のスカーフを巻いて、後ろにふわりと垂らしていました。
その上には、つばの広い帽子。
とてもエレガントで、私は今でもその姿を覚えています。
「脱毛しているから隠さなければ」
ではなく、
「今の自分だからできるスタイルを楽しむ」
という考え方もあるのだと思います。
帽子を楽しんでもいい。
スカーフを楽しんでもいい。
ウィッグでいつもの髪型を楽しんでもいい。
何もつけずに過ごしてもいい。
どれが正解ということではありません。
脱毛の時期も、その後も「自分らしく」
乳がん治療による脱毛は、身体の変化だけでなく、気持ちや生活にも影響することがあります。
だからこそ、無理に前向きにならなくても大丈夫です。
「髪が抜けるのが嫌」
「ウィッグをつけたくない」
「外に出るのが嫌になりそう」
そんな気持ちも、自然なものです。
そして、髪が生えてきたときには、
「思っていた髪と違う」
「まだウィッグを手放せない」
「前髪が気になる」
という新しい悩みが出てくることもあります。
そのたびに、その時の自分に合った方法を選んでいけばいいのだと思います。
治療中のあなたも、
髪が抜けているあなたも、
髪が生えてきたあなたも、
どれもあなた自身です。
どうか「元に戻らなければ」と焦りすぎず、
その時期の自分に似合うスタイルを見つけてください。
あなたらしく過ごすための方法は、きっとひとつではありません。
そして、脱毛について不安なことがあれば、主治医や看護師、薬剤師、がん相談支援センターなどにも相談してみてください。国立がん研究センターも、アピアランスケアについて医療者やがん相談支援センターへの相談を案内しています。
はんなりも、治療中の身体だけでなく、治療によって変化する心や暮らしにも、そっと寄り添える場所でありたいと思っています。
治療が終わったあとも、一人じゃない。
髪のことも、身体のことも、これからの暮らしのことも。
「こんなことを相談してもいいのかな」と思うような小さな不安も、どうか一人で抱え込まないでください。
はんなりは、治療中だけでなく、治療が終わったあとも、自分らしく毎日を過ごしていけるように、そっと寄り添える場所でありたいと思っています。
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