「治療費、この先ずっと払っていけるのかな」
乳がんの治療が始まったとき、病気そのものへの不安と同じくらい、お金のことが心配になる方もいると思います。
治療費だけではありません。
仕事を休めば収入が減る。
通院には交通費がかかる。
治療に必要なものを購入することもある。
家族の生活費や住宅ローン、子どもの教育費もある。
そして、治療が長く続けば、その負担も長く続いていきます。
このようながん治療に伴う経済的な負担や、それによって生活や心身に生じる影響を表す言葉に、「経済毒性(financial toxicity)」があります。
「経済毒性」は、単に治療費が高いという意味ではありません
経済毒性という言葉を初めて聞く方も多いかもしれません。
これは、がん治療によって生じる経済的な負担が、患者さんの生活や心身、治療そのものにまで影響する状態を表す言葉です。
たとえば、
- 医療費や薬代が家計の負担になる
- 通院の交通費などが積み重なる
- 治療のために仕事を休み、収入が減る
- 治療と仕事の両立が難しくなる
- 貯金を取り崩さなければならなくなる
- 「お金が続かない」と治療について悩む
- 家族に経済的な負担をかけていると感じる
などがあります。
つまり、「いくらかかったか」という数字だけでは測れない問題なのです。
乳がんでも「経済毒性」は無関係ではありません
乳がんは、手術をして終わりとは限りません。
抗がん剤、放射線治療、ホルモン療法、分子標的薬など、病状に応じてさまざまな治療が行われます。
治療によっては、長い期間にわたって薬を使うこともあります。
そのため、
「治療期間が長くなるほど、経済的な負担も長くなる」
ということがあります。
実際、2025年に発表された乳がん患者を対象としたシステマティックレビュー・メタ解析では、高所得国の研究でも約4割の患者さんに経済毒性がみられたと報告されています。
決して、一部の人だけの問題ではありません。
病院で見てきた「治療と生活」の現実

私自身、病院でリハビリテーションに携わっていたとき、
「治療費がかかるから、抗がん剤をどうするか迷っている」
という方を見たことがあります。
また、
「パートの収入がなくなると生活が成り立たない」
という理由から、乳がんの手術後、できるだけ早く仕事に復帰した方もいました。
もちろん、仕事に戻ることは、その方にとって大切な希望や生きがいである場合もあります。
でも、
「本当はもう少し休みたいけれど、休めない」
という状況だったとしたら。
そこには、病気だけではなく、生活を守るためのお金の問題があります。
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「治療を受けたい」と「生活を守りたい」
この2つは、本来どちらかを選ばなければならないものではないと思います。
けれど現実には、
「治療を続けたい」
という気持ちと、
「家計も守らなければならない」
という気持ちの間で悩む方がいます。
特に乳がんでは、治療が長期にわたることもあります。
治療そのものだけではなく、
「この治療を続けながら、これからの生活をどうしていくか」
という視点も大切なのだと思います。
長く続く治療では、薬代も負担になります
乳がんの治療には、長期間にわたって薬を使うケースがあります。
私のサロンでも、
「治療のための注射が毎月かなりの負担になっている」
と話してくださった方がいました。
再発後の治療で、長期的な治療を提案されていても、
「この先ずっと続けていくのは、年金生活では経済的に厳しい」
と悩んでおられました。
治療を続けたい気持ちがあっても、家計とのバランスを考えなければならない。
これは、とても苦しいことだと思います。
もちろん、新しい薬や治療法によって、以前より治療の選択肢が増えたことは大きな進歩です。
だからこそ私は、
「治療が進歩すること」と「その治療を続けられること」
の両方が大切なのではないかと思います。
経済的な不安は、QOLにも影響します
「お金の問題だから、病院で相談するのは申し訳ない」
と思う方もいるかもしれません。
でも、経済的な不安は、単なる家計の問題ではありません。
研究では、経済毒性が強い人ほど、健康関連QOLが低いことが示されています。
身体面だけではなく、精神面、社会生活、日常生活など、さまざまなQOLの領域との関連が報告されています。
また、経済的な負担は不安や抑うつなどの心理的な負担とも関連することが報告されています。
だから、
「お金の心配をすることも、治療の一部」
と考えていいのではないでしょうか。
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使える制度を知らないまま、一人で抱えないで

日本には、医療費や仕事に関する負担を軽くするための制度があります。
高額療養費制度
公的医療保険の対象となる医療費について、1か月の自己負担額が一定の上限を超えた場合、その超えた分が支給される制度です。
年齢や所得によって自己負担限度額が異なります。
2026年8月から制度が見直されているため、現在の制度については厚生労働省の最新情報を確認することが大切です。
傷病手当金
健康保険の被保険者が、病気やけがのために仕事を休み、十分な給与を受けられない場合に、一定の条件のもとで支給される制度です。
治療によって仕事を休まなければならなくなったときには、勤務先の健康保険や職場の担当者に確認してみましょう。
医療費控除
1年間に支払った医療費が一定額を超えた場合、所得税の確定申告で医療費控除を受けられる場合があります。
ただし、対象となる費用や計算方法がありますので、国税庁などの最新情報を確認しましょう。
障害年金
病気やけがによって生活や仕事に大きな制限が生じた場合、障害年金の対象となることがあります。
「がんだから必ず受給できる」という制度ではなく、障害の状態や初診日、保険料の納付要件など、一定の条件があります。
「治療と仕事の両立」という支援もあります
仕事を辞める前に、相談できる場所があることも知っておいてほしいと思います。
厚生労働省では、治療と仕事の両立を支援するための制度や相談窓口を案内しています。
2026年からは、職場における治療と就業の両立支援について、事業主による取組が努力義務となるなど、制度も動いています。
「治療か仕事か」の二択ではなく、
「どうしたら治療を続けながら働けるか」
を一緒に考えるための仕組みも少しずつ整えられています。
どこに相談したらいい?
「何を利用できるのか分からない」
そんなときは、まず主治医や看護師、病院のがん相談支援センターに相談してみてください。
高額療養費制度だけではなく、仕事、社会保障、療養生活などについて相談できる場合があります。
厚生労働省の「治療と仕事の両立支援ナビ」では、都道府県ごとの相談窓口や支援機関も紹介されています。
「お金のことで困っています」
と言っていいのです。
それは決して、わがままでも、治療に後ろ向きなことでもありません。
医療が進歩するからこそ
新しい薬が開発され、治療の選択肢が増えていく。
それは、とても素晴らしいことです。
以前なら難しかった病気や再発後の治療でも、長く病気と付き合いながら生活できる可能性が広がっています。
でも、その一方で、
「この治療を続けるには、いくら必要なんだろう」
という新しい悩みも生まれています。
だから私は、
医療の進歩は、薬や治療法だけの進歩ではなく、治療を受ける人が安心して生活を続けられるところまで含めて考えていくことが大切なのではないか
と思っています。
お金の不安も、ひとりで抱えなくていい
乳がんになったとき、
「治療のこと」
「仕事のこと」
「家族のこと」
「これからの生活のこと」
そして、
「お金のこと」。
いろいろな心配が一度に押し寄せてくることがあります。
その中で、お金の不安だけを「自分で何とかしなければ」と抱え込まなくても大丈夫です。
利用できる制度があるかもしれません。
働き方を調整できるかもしれません。
治療について、医療者と相談できることがあるかもしれません。
そして何より、
「経済的に厳しい」ということも、治療を考えるうえで大切な情報です。
遠慮せずに伝えてください。
医療が進歩して、治療の選択肢が増えていく。
その治療を受ける人が、治療だけでなく、その後の暮らしも大切にできる。
そんな医療であってほしいと、私は思っています。
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この記事で紹介した制度について
制度の内容は変更されることがあります。
特に高額療養費制度は2026年8月から見直しが行われていますので、実際に利用する際は最新情報を確認してください。
※この記事は、乳がん患者さんの経済的な負担について考えるための情報提供を目的としたものです。個別の治療や薬剤の選択、制度の利用については、主治医、医療ソーシャルワーカー、がん相談支援センター、加入している健康保険などにご相談ください。
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