乳がんの手術を受ける方から、手術前のことを聞くことがあります。
その中で、ふと印象に残るのが、
「手術室まで歩いて行きました」
という話です。
手術という大きな出来事を前にすると、患者さんはたくさんのことを医療者に委ねることになります。
検査を受ける。
着替える。
点滴をする。
手術を待つ。
そして、手術室へ向かいます。
そのとき、体調や状態に問題がなく、歩いて移動できる方が、手術室まで自分の足で歩いて入る。
これは、単なる「移動方法」の違いだけではないのかもしれません。
「自分で歩いて行く」という小さな主体性
手術を受けるとき、
「これから自分の身体に何が起こるんだろう」
そんな不安を感じる方もいると思います。
そんな中で、自分の足で歩いて手術室へ向かうことは、
「私は今、自分でここへ向かっている」
という感覚につながることがあります。
もちろん、すべての方が歩いて手術室へ行けるわけではありません。
体調や手術の内容、転倒のリスクなどによって、車椅子やストレッチャーで移動することもあります。
大切なのは、歩くことそのものではなく、
できることを、できるだけ自分で選べること。
そこに意味があるのではないでしょうか。
手術室に入ってからも「いつもの会話」

もう一つ、印象的なのが、手術室に入ってからの時間です。
麻酔の準備をしながら、看護師さんとおしゃべりをしている方もいます。
「緊張しますね」
「昨日は眠れました?」
「今日は寒いですね」
そんな何気ない会話。
手術室という、普段とはまったく違う場所でも、誰かと話していると少しだけ空気が柔らかくなることがあります。
会話をすれば必ず不安がなくなる、というわけではありません。
でも、手術前の緊張から少し意識をそらしたり、医療者とのやり取りを通して安心感を得たりすることはあります。
そして何より、
「私は手術を受ける患者だけれど、その前に一人の人間としてここにいる」
そんな感覚を持てる時間なのかもしれません。
「病人になる」ことの不思議
病気になると、それまで自分でしていたことを誰かにしてもらう場面が増えます。
着替える。
身体を動かしてもらう。
検査を受ける。
薬を管理してもらう。
そして手術では、自分の身体を医療者に預けることになります。
もちろん、それは必要なことです。
医療者に身を委ねるからこそ、安心して治療を受けることができます。
でも、その中でも、
「自分でできること」
「自分で決められること」
「自分らしくいられること」
が少しでも残っていることは、大切なのだと思います。
手術の前にも、その人の人生がある
乳がんの手術というと、
「手術が無事に終わること」
がまず大切です。
でも、患者さんにとっては、手術室へ入るまでにも一人ひとりの時間があります。
不安になったり、怖くなったり。
看護師さんと話して笑ったり。
自分の足で歩いたり。
最後までいつもの自分でいようとしたり。
そういう一つひとつの時間も、その人にとっては「治療の経験」の一部なのだと思います。
医療は、病気を治すことだけではありません。
その人が、その人らしく治療を受けられること。
それも、とても大切なことなのではないでしょうか。
「できること」を大切にする

私が理学療法士として、乳がん術後の方と関わるときにも、
「できないこと」だけを見るのではなく、
「今できること」に目を向けることを大切にしています。
腕が上がらない。
肩が痛い。
身体が思うように動かない。
そんなときも、
「ここまでは動かせる」
「これはできる」
というところから、一緒に考えていきます。
手術室まで歩いて入ることも、その一つなのかもしれません。
歩けるなら歩く。
話したいなら話す。
不安なら伝える。
眠る前に、深呼吸する。
そんな小さな「自分でできること」が、治療の中で自分らしさを支えてくれることがあります。
乳がんの治療の中にも「自分らしさ」を
手術は、人生の中の大きな出来事です。
だからこそ、その大きな出来事の中にも、
「自分らしくいられる時間」
があってほしい。
手術室まで歩いて行くことも。
看護師さんと話すことも。
不安な気持ちを伝えることも。
どれも小さなことに見えるかもしれません。
でも、そんな小さなことの積み重ねが、
「私は私のまま、治療を受けている」
という感覚につながるのかもしれません。
乳がんになったからといって、あなたの人生が病気だけになるわけではありません。
治療を受ける人である前に、あなたはあなた。
そのことを、手術の前も、その後も、忘れないでいてほしいと思います。
はんなりから
乳がんの治療では、身体だけでなく、心も大きく揺れ動きます。
「手術が終わったら元に戻れると思っていた」
「身体の変化が気になるようになった」
「これからどうしていけばいいのかわからない」
そんな気持ちになることもあるでしょう。
一人で抱えなくて大丈夫です。
はんなりでは、乳がんの治療を経験された女性の身体と心に寄り添いながら、
「治療が終わったあとも、一人じゃない。」
と思っていただける場所でありたいと考えています。
身体をゆるめること。
少しずつ、うごかすこと。
そして、自分の身体をもう一度知っていくこと。
その人のペースを大切に、一緒に考えていきます。
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