球体模様
乳がんと心・生活

病気になったとき、いちばん怖いものは「孤独」かもしれない

病気になったとき、いちばん怖いものは「孤独」かもしれない

以前、母親学級に参加したときのことを、今でも覚えています。

産科の先生が、これから母親になる私たちに尋ねました。

「母親になりたての人にとって、
一番怖いものは何だと思いますか?」

私は、

感染症かな。

赤ちゃんが病気になることかな。

お産の痛みかな。

そんなことを考えていました。

すると先生は、

「それは、孤独です」

と言われました。

意外でした。

でも、その後の先生の話を聞いて、少しずつその意味が分かっていきました。


幸せなはずなのに、孤独になる

赤ちゃんを抱く母親が穏やかな表情で過ごしている

子どもが生まれたばかり。

赤ちゃんがいて、家族がいて。

周りから見れば、幸せに満ちているように見える時期です。

でも、そんな時期にも、孤独感に襲われることがある。

赤ちゃんのお世話を一日中している。

誰かと話しているようで、
大人との会話がほとんどない。

自分のことは後回し。

眠れない。

身体もまだ本調子ではない。

それなのに、

「赤ちゃんが生まれて幸せでしょう」

と言われると、

「つらいなんて言ってはいけないのかな」

と思ってしまうこともある。

私は、その産科の先生が言った

「一番怖いものは、孤独です」

という言葉を、今でも覚えています。

幸せそうに見える人にも、孤独はやってくる。

それは、病気になったときも同じなのだと思います。


孤独は「一人でいること」ではない

孤独というと、

一人暮らしをしている人。

友人が少ない人。

人付き合いが苦手な人。

そんなイメージがあるかもしれません。

でも、実際はそうとは限りません。

家族がいても、孤独を感じることがあります。

友人がたくさんいても。

社交的な性格でも。

毎日誰かと話していても。

ふと、

「この気持ちは誰にも分かってもらえない」

と思うことがあります。

人がいることと、
孤独を感じないことは、同じではないのです。

だから、

「家族がいるんだから大丈夫でしょう」

「友達がたくさんいるんだから、孤独じゃないでしょう」

とは言い切れません。


乳がんの治療中や治療後、孤独を感じることがあります

病気になったときは、特にそうです。

家族は心配してくれている。

友人も励ましてくれる。

病院では医師や看護師が支えてくれる。

それでも、

「この気持ちは、私にしか分からない」

と思う瞬間があります。

治療の怖さ。

検査結果を待つ時間。

副作用のつらさ。

身体が変わっていく戸惑い。

仕事や家族のこと。

これからの生活への不安。

再発への心配。

そして、

「いつまで続くんだろう」

という気持ち。

周りの人がどれだけ優しくても、
病気を経験した本人にしか分からない感覚があります。

だからこそ、病気のつらさの中では、
孤独を感じやすくなるのだと思います。


「みんながいるのに、ひとりぼっち」

乳がんの治療中は、
病院に行けば医療者がいます。

家に帰れば家族がいる。

LINEをすれば友人から返事が来る。

SNSを開けば、たくさんの人とつながっている。

それでも、

心の中ではひとりぼっち。

そんなことがあります。

特に、治療が一区切りついたあと。

周りの人は、

「治療が終わってよかったね」

「これで元の生活に戻れるね」

と喜んでくれる。

もちろん、それは嬉しいことです。

でも本人は、

「身体はまだ元通りじゃない」

「不安はまだある」

「薬の治療は続いている」

「リンパ浮腫の心配もある」

そんなふうに感じているかもしれません。

周りの時間と、自分の時間が少しずれてしまう。

そこにも孤独が生まれることがあります。


リンパ浮腫も、孤独を生むことがある

リンパ浮腫も同じです。

腕がむくむ。

重い。

だるい。

張る。

服が着にくい。

弾性着衣が必要になる。

皮膚を傷つけないように気をつける。

感染症にも注意する。

身体的な負担があります。

でも、それだけではありません。

「こんなこと、誰に相談したらいいんだろう」

「周りには大したことじゃないと思われているかも」

「ずっとこのままなのかな」

そんな気持ちになることがあります。

特に、

「相談する場所が分からない」

ということは、大きな孤独につながります。


孤独は、薬では治せない

病気になったら、
医療にはたくさんの「治療」があります。

手術。

薬。

放射線。

リハビリテーション。

弾性着衣。

運動。

スキンケア。

それぞれに大切な役割があります。

けれど、

「ひとりぼっちだと感じる気持ち」に対しては、
薬を飲めば解決する、というものではありません。

だから私は、

孤独も、ケアの対象なのではないか

と思っています。

誰かと話す。

同じ経験をした人と出会う。

ただ同じ場所にいる。

「分かるよ」と言ってもらう。

あるいは、何も話さなくても、
そこに誰かがいる。

それだけで救われることがあります。


「誰かがいる」と感じられること

女性同士が自然に会話しながら過ごしている様子

以前、その産科では、母親同士のつながりをとても大切にしていました。

入院中の食事も、
それぞれの部屋で一人で食べるのではなく、
ダイニングに集まって、みんなで食べる。

赤ちゃんのお世話をしながら、

「眠れました?」

「うちの子、よく泣くんです」

「母乳、うまくいかなくて……」

そんな何気ない会話が生まれる。

そこには、
同じ時期に母親になった人たちがいました。

その先生は、孤独を恐れていたからこそ、
「人とつながる環境」を大切にしていたのだと思います。


病気のときにも、人とのつながりが大切

病気になったときも、

「自分だけじゃない」

と思えることは、大きな支えになります。

オンラインでつながることもできます。

SNSで同じ病気の人を見つけることもできます。

情報を得ることもできます。

それも、とても大切です。

でも、

同じ場所に座っている。

同じ時間を過ごしている。

同じ経験をした人の声を聞く。

誰かが自分の話を黙って聞いてくれる。

そんな時間には、
画面越しとはまた違う力があるように思います。


「何かをしてあげる」だけがケアではない

コロナ禍のとき、
私は「ただ人と同じ場所にいる」ということの大切さを強く感じました。

会って話す。

一緒に笑う。

同じ空間で過ごす。

そんな当たり前のことが、
当たり前ではなくなりました。

そのとき、

人は、何かをしてもらうだけではなく、
「誰かと一緒にいること」そのものから力をもらうんだな

と思いました。

病気のときも、きっと同じです。

何か特別なことをしなくてもいい。

アドバイスをしなくてもいい。

励まさなくてもいい。

ただ隣にいる。

話を聴く。

一緒に笑う。

それだけでもいいのだと思います。


「あなたは一人じゃない」と伝えたい

病気になったとき、

「頑張って」

と言われるより、

「一人じゃないよ」

と言ってもらえるほうが、
心に届くことがあります。

すぐに解決しなくてもいい。

前向きになれなくてもいい。

何かを頑張らなくてもいい。

ただ、

「ここにいていい」

と思える場所があること。

それは、病気と付き合っていくうえで、
とても大切なことなのではないでしょうか。


あの先生の言葉を、今になって思う

母親学級で聞いた、

「一番怖いものは、孤独です」

という言葉。

あのときは、少し意外に感じました。

でも、今なら分かる気がします。

人は、家族がいても。

友人がいても。

たくさんの人に囲まれていても。

幸せそうに見えても。

孤独を感じることがある。

そして、病気で身体も心もつらいときには、
その孤独がより深くなることもある。

だからこそ、

病気の治療だけではなく、
孤独を小さくすることも大切なのだと思います。

孤独そのものを、薬のように「治す」ことはできないかもしれない。

でも、

孤独を感じている人の隣に座ることはできる。

話を聴くことはできる。

一緒に過ごすことはできる。

「一人じゃないよ」と伝えることはできる。

それは、医療とは違う形の、
大切なケアなのかもしれません。


だから、エールの会を開きます

「孤独は治療できない。
でも、孤独を小さくすることはできる。」

私は、この言葉を大切にしたいと思っています。

その方法のひとつが、
誰かと同じ時間を過ごすことなのかもしれません。

たくさん話さなくてもいい。

自分の経験を話さなくてもいい。

誰かの話を聞いているだけでもいい。

泣いてもいい。

笑ってもいい。

ただ、そこにいるだけでもいい。

「私だけじゃなかった」

そう思える瞬間が、
孤独を少し小さくしてくれることがあります。

だから、今年も乳がん患者さんの集まり、
「エールの会」を開催します。


エールの会は、頑張るための場所ではありません

病気になったら、

「前向きにならなきゃ」

「頑張らなきゃ」

と思ってしまうことがあります。

でも、エールの会では、
無理に前向きにならなくても大丈夫です。

治療のこと。

身体のこと。

リンパ浮腫のこと。

仕事のこと。

家族のこと。

美容のこと。

食事のこと。

これからのこと。

普段はなかなか話せないことも、
ここでは話していい。

もちろん、話したくないことは話さなくてもいい。

聞いているだけでも大丈夫です。

一人で参加しても大丈夫。

「患者会って、ちょっと緊張するな」

という方にも、
安心して来てもらえる場所にしたいと思っています。


「ただ同じ場所にいる」ことの意味

コロナ禍を経験して、
私たちは「人と会う」という当たり前のことが、
どれほど大切だったのかを知りました。

画面越しにつながることもできます。

情報を得ることもできます。

それでも、

同じ場所に座って、

同じ時間を過ごして、

誰かの声を聞いて、

一緒に笑う。

そんな時間だからこそ感じられるものがあります。

もしかしたら、

ただ同じ場所にいるだけで、
誰かの孤独を小さくできるのかもしれません。

そして、その時間が、
自分自身の孤独も小さくしてくれるかもしれません。


あなたも、一人じゃない

病気になったことがない人には分からない気持ちがあります。

治療を経験した人にしか分からないことがあります。

そして、同じ乳がん経験者でも、
感じ方や悩みは一人ひとり違います。

だからこそ、
「分かってもらえる場所」が必要なのだと思います。

何かを解決するためだけではなく、

「ここにいていい」

と思える場所。

そんな時間を一緒につくれたらと思っています。


2026年「エールの会」

日時:2026年10月29日(木)13:15~14:30
場所:えーるピア久留米 205号室
参加費:無料

乳がん経験者だけでなく、
乳がんに関心のある方、
ご家族やご友人も参加できます。

一人での参加も歓迎です。

たくさん話さなくても大丈夫。

聞くだけの参加も大丈夫です。

あなたがそこに来てくれることが、
誰かの「一人じゃない」につながるかもしれません。

そして、

あなた自身も、

「私だけじゃなかった」

と思えるかもしれません。

お会いできることを楽しみにしています。


はんなりから

母親学級で聞いた、

「母親になりたての人にとって、一番怖いものは孤独です」

という言葉。

何年も経った今、
私はその言葉を、病気を経験した方にも重ねています。

病気になったときも、
人は孤独になることがある。

だから私は、

孤独は治療できない。
でも、孤独を小さくすることはできる。

そう信じています。

そのためにできることを、
これからも大切にしていきたいと思います。

治療が終わったあとも、一人じゃない。

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中野 郁子

この記事を書いた人中野 郁子(なかの いくこ)

乳がん女性の駆け込み寺 はんなりを運営しています。
母をがんで亡くした後、がん患者さんとその家族を支える仕事がしたいと転職。
久留米市の病院に勤務後、2016年に開業しました。
理学療法士、アロマセラピスト、ピンクリボンアドバイザー、乳がん啓発運動指導士の資格があります。

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