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乳がんと心・生活

なぜ、こんなに疲れるの?|目に見えない「メンタルロード」と女性の疲れ

なぜ、こんなに疲れるの?|目に見えない「メンタルロード」と女性の疲れ

目に見えない「メンタルロード」と女性の疲れ

「特別なことをしたわけでもないのに、疲れている」

「ちゃんと寝たはずなのに、なんだか休まった気がしない」

「仕事から帰ると、もう何もしたくない」

そんなふうに感じることはありませんか?

疲れというと、仕事をした、たくさん歩いた、家事をした、といった「身体を使った量」で考えがちです。

でも、私たちを疲れさせるものは、目に見える作業だけではありません。

もしかするとその疲れには、「メンタルロード」と呼ばれる、目に見えない負担も関係しているかもしれません。

メンタルロードとは?

買い物や家族の予定を管理する手帳とスマートフォン

メンタルロード(mental load)とは、家事や育児、介護、家族の生活などについて、

「考える」
「覚えておく」
「先回りする」
「計画する」
「調整する」

といった、目には見えにくい認知的・精神的な負担のことです。

たとえば、「ゴミを出す」という家事。

実際にゴミ袋を持って集積所まで行くことだけが家事ではありません。

「明日は燃えるゴミの日だった」
「ゴミ袋がもう少しでなくなる」
「朝は忙しいから、今夜まとめておこう」

そんなことを覚えて、考えて、段取りしている人がいます。

料理も同じです。

ご飯を作る前には、

「冷蔵庫に何があったかな」
「昨日は魚だったから今日は肉にしよう」
「子どもの予定は?」
「帰宅時間は?」
「明日の朝ごはんも残しておこう」

と、いくつもの判断があります。

手を動かしていない時間にも、頭の中では家事が続いているのです。

頭の中に、たくさんの「小さなタブ」が開いている

洗濯物をたたみながら予定を確認する女性

私は、メンタルロードを「頭の中にたくさんのタブが開いている状態」と考えると、とてもわかりやすいと思います。

仕事のこと。

夕食のこと。

家族の予定。

学校からの提出物。

親の通院。

日用品の買い足し。

美容院の予約。

冷蔵庫の中身。

「あの人にLINEを返さなくちゃ」ということまで。

一つひとつは、それほど大きなことではないかもしれません。

けれど、それが何十個も同時に頭の片隅に残っている。

パソコンでも、たくさんのアプリやタブを開いたままにしていると動作が重くなります。

人間も同じように、たくさんのことを覚え、注意を向け、判断し続ければ、認知的な負担は大きくなります。

だから、

「今日はそんなに何もしていないのに、どうしてこんなに疲れているんだろう」

と思う日があっても、不思議ではありません。

「家事を手伝ってもらっているのに疲れる」のはなぜ?

家族が家事をしてくれている家庭でも、メンタルロードが一人に集中していることがあります。

たとえば、

「買い物に行ってくれる?」

「何を買えばいい?」

「洗濯してくれる?」

「これは乾燥機に入れていい?」

「子どもの病院に連れて行ってくれる?」

「何時に予約してる?」

実際の作業は誰かがしてくれていても、

考える人、指示する人、管理する人がいつも同じなら、頭の中の仕事は減っていません。

「やる人」と「考えて管理する人」は、必ずしも同じではないのです。

そして、このような家庭内の見えない認知労働や感情的な負担は、女性側に偏りやすいことが研究でも指摘されています。

もちろん、すべての家庭がそうというわけではありません。

大切なのは、「誰がどれだけ家事をしたか」だけではなく、

誰がその家事を覚え、考え、先回りして管理しているのか

にも目を向けることだと思います。

乳がん治療中・治療後は、さらに「考えること」が増える

乳がんの治療を経験すると、これまでの生活のメンタルロードに、さらに新しい「タブ」が加わることがあります。

次の診察はいつだったかな。

薬を飲んだかな。

この痛みは大丈夫かな。

腕が少しむくんでいる気がする。

再発ではないよね。

仕事はいつまで休もう。

家族に心配をかけたくない。

保険の書類も出さなくちゃ。

病院の予約も確認しなくちゃ。

身体が治療から回復してきても、頭の中では病気に関する仕事が続いていることがあります。

さらに、手術、抗がん剤、放射線治療、ホルモン療法などによる身体的な疲労や睡眠の問題、更年期に似た症状などが重なることもあります。

ですから、乳がん治療中・治療後の「疲れ」を、

「体力が落ちたから」

だけで説明することはできません。

身体的な要因、治療の影響、睡眠、心理的な負担、そして日常生活のメンタルロード。

いくつものものが重なっている可能性があります。

「疲れ」の原因は、メンタルロードだけではありません

ここでひとつ、お伝えしておきたいことがあります。

乳がん治療中・治療後の疲れには、治療そのものの影響、睡眠の問題、痛み、活動量の変化、心理的な負担など、さまざまな要因が関係します。

がんに関連する疲労は、単なる「体力の低下」だけではなく、身体的・感情的・認知的な疲れとして現れることがあります。

そのため、「疲れているのはメンタルロードのせい」と一つの原因に決めつけることはできません。

ただ、身体のことだけを考えても理由が見つからないとき、

「私は毎日、どれくらいのことを考え続けているだろう」

と、目に見えない負担にも目を向けてみる。

それも、自分の疲れを理解するひとつの方法だと思います。

疲れが強い、長く続く、日常生活に支障がある場合には、「頑張りすぎかな」と自己判断だけで済ませず、主治医など医療者に相談してください。

休むことは、「何もしないこと」だけではない

窓辺でゆっくり休む女性

疲れていると、

「今日は早く寝よう」

「少し横になろう」

と考えます。

もちろん、身体を休ませることは大切です。

でも、身体を横にしていても、

「夕飯どうしよう」

「明日の予定は……」

「あれもやらなくちゃ」

と頭の中が動き続けていたら、十分に休んだ感じがしないこともあります。

だから、ときには身体だけではなく、

「考える役割」から降りる時間

をつくってみてもいいのだと思います。

今日の夕食は簡単なものでいい。

洗濯物は明日でもいい。

家族に任せたことは、やり方まで管理しない。

全部きちんとできなくてもいい。

小さなことですが、頭の中に開いているタブを、一つずつ閉じていくような感覚です。

「もっと頑張らなくちゃ」と思っているあなたへ

サロンで女性のお話を聞いていると、

「私、何もしていないのに疲れてしまって」

「昔はもっとできたんです」

「体力がなくなりました」

と申し訳なさそうに話される方がいます。

でも、お話を聞いていくと、本当に「何もしていない」方はほとんどいません。

仕事をして、

家族のことを考えて、

家事をして、

自分の身体の変化にも気を配り、

病院へ行き、

薬を飲み、

これからのことを考えている。

目に見える仕事だけを数えれば、それほど多くないように見える日でも、

頭の中では、ずっと働き続けていることがあります。

だから、疲れている自分を見て、

「もっと頑張らなくちゃ」

と思わなくてもいいのではないでしょうか。

むしろ一度、

「私は、何をこんなにたくさん考えているんだろう?」

と、自分の頭の中を眺めてみてください。

目には見えなかった「仕事」が、たくさん見つかるかもしれません。

疲れるのには、理由があります。

そして、その理由を知ることは、自分を責めるためではなく、

自分を少し休ませてあげるため。

あなたはもう、十分頑張っています。

今日はひとつくらい、頭の中のタブを閉じてもいいのではないでしょうか。

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中野 郁子

この記事を書いた人中野 郁子(なかの いくこ)

乳がん女性の駆け込み寺 はんなりを運営しています。
母をがんで亡くした後、がん患者さんとその家族を支える仕事がしたいと転職。
久留米市の病院に勤務後、2016年に開業しました。
理学療法士、アロマセラピスト、ピンクリボンアドバイザー、乳がん啓発運動指導士の資格があります。

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